本格小説(自宅読書会2003年4月課題)

水村 美苗 新潮社

概要
ニューヨークで暮らしていた著者が、少女期に知った アメリカの金持ちのお抱え運転手をしていた東太郎。その後、彼は著者の父親の会社に入り、徐々に出世し、のちに大金持ちになった。東太郎と会うことも接点もなくなった著者が後、日本人の青年に訪問され、東太郎の幼少期から今までのことを話す。そして、それを著者が「本格小説」にした。

感想

とにかく本編に入るまでが177ページもあり長くてびっくりした。でも、その長い前書きが少しも退屈でも、説明的で退屈でもなく、東太郎の飛躍的な出世と、著者の家族の絆の崩れと経済状態の悪化が、対照的にそして効果的に描かれていて、本編に入る期待感をふくらませてくれた。
本編に入り、加藤祐介が軽井沢の追分で女中の土屋富美子と出会い、追分の山荘の主人である東太郎を知り、その圧倒的な存在感に引き付けられ、富美子から東太郎の話を聞くことになる。
富美子の独白として東太郎の生い立ちが語られるのだが、最初は彼女自身の生い立ちや東太郎と出会うまでのことが延々と続く。じれったくもあるが、山村で戦中に育った田舎娘が米軍のメイドになり、美しい華やかな三人娘と出会い、その一人の嫁ぎ先の女中になるまでの話は、登場人物がそれぞれよく描かれていて、激動の昭和という背景もあり、読み応えたっぷりだった。
東太郎が登場してから、もう本を置くのがおしいくらい物語に没頭してしまった。鼻たらしで、垢だらけで汚い服を着た東太郎が、富美子が勤める宇多川家の娘のよう子ちゃんに学校でかばわれてから、よう子ちゃんと密接になり、毎日宇多川家に出入りするようになり・・・・
よう子ちゃんや東太郎の視点で描かれていないので、二人の間でどのような葛藤があったのかがはっきりしないがのが、もどかしいが、二人の純愛物語に夢中になってしまった。
身分違いというのは変な言い方かもしれないが、不幸な出生の貧乏な太郎と、恵まれた環境のよう子はとても結ばれない、よう子自身、太郎が好きでも結婚はできないと言い切る。未来のない二人の関係。
そして二人は太郎がアメリカへ旅立ち、離れ離れになる。
「嵐が丘」のような物語とあるが、もうずっと昔に読んだ「嵐が丘」がどういう内容だったか、はっきりしないが、「本格小説」ほど夢中になって読まなかったように思う。
文体自体は、古めかしい漢字が使われているという事以外、あまり特徴はないが、登場人物がしっかり描かれていて、その生い立ちが後にちゃんと反映されていて、彼らのいる空間(「本格小説」の中)にどっぷりつかって、読み終わってしまうのが勿体無かった。
こんなに人を夢中で愛せたら、愛されたらなぁ・・・
そんなことを思ってしまった。
ひとつ気になったのは、読んでいると、何ともいえない寂寥感に襲われるということだった。人生に対するなんとも言えない失望感や孤独感が行間から現れ、物哀しい気分になってしまうのだ。
それは、著者自身の人生観があらわれているのか、そういう人物が描かれているからなのか、判然としなかったが、希望をいつも持ち続けたい私には、ちょっと重い気分にさせる作品でもあった。

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