模倣犯(自宅読書会2003年4月課題)

宮部みゆき 小学館

関連書籍;中居正広in「模倣犯」―ピースの世界
DVD 「模倣犯

概要
連続女性誘拐殺人事件の被害者、その家族、事件を追う警察、ルポライター、そして犯人側から描かれている。上下巻で約1400ページ、二段組になっている分厚い本だが、人物の描かれ方にリアリティがあり、うんざりすることなく、物語に引き込まれて読み進める。
友情とは何か、犯罪者の家族や被害者の家族についてなどいろいろと考えさせられる作品。

主な登場人物
栗橋浩美  高井和明の幼なじみ。生後すぐに死んだ姉の夢におびえている。
高井和明  目に障害がありそのせいで、辛い子ども時代を送る。中学卒業後、家業の蕎麦屋で働く。
網川浩一  栗橋浩美の小学校からの親友。笑うとピースマークのような顔になることからピースというニックネーム。
有馬義男  被害者古川鞠子の祖父。豆腐屋を営んでいる。犯人から電話で接触される。
高井由美子 高井和明の妹。
塚田真一  大川公園のゴミ箱で女性の腕を水野久美と一緒に発見。自身も両親と妹を別の事件で殺害された被害者でもある。
武上悦郎  刑事。デスク担当。
前畑滋子  ルポライター。女性誌のライターだったが、ふとしたきっかけで連続女性誘拐殺人事件のルポを書き、評判になる。
前畑昭二  滋子の夫。鉄工所を親と一緒に営む。
水野久美  大川公園で女性の腕を発見。その後、塚田真一のガールフレンドになる。

感想

ここまで物語を長く、たくさんの登場人物を出す必要があるのか、という疑問を持たれる人が多いらしい。でも、これだけの人物が登場しても、一人一人きちんと描かれていてごちゃまぜになったりしない。しかもそれぞれの人物が、いろんな面から事件にかかわっているので、事件をより具体的に、多角的に見つめ頭に描くことができた。
そして被害者が存在感がない得体の知れない人物ではなく、ちゃんと生きていろんな人や家族と関わりを持っていた人物なので、殺されたことの、犯罪の重さを感じさせてくれた。
事件が起こってからの社会の反応も、マスコミ、ラジオ、相談員、などいろんな面から描かれていて、実際の事件が起こっているかのように、臨場感を持って読めた。
私としては、まだ、書き込んでほしかったところもあるくらいだった。
ひとつ気になるのは高井和明の妹、由美子が前半と後半では(状況は大いに変わったとはいえ)あまりに性格が違うように思えること。後半はただ、ただ彼女は受身な存在に描かれているのが口惜しい。
本筋の事件とは関係ないが、塚田真一が両親と妹を殺害され、その犯人の娘から執拗に追い回され、彼自身、罪の意識(彼が犯人に加担したわけではないのに)にさい悩まされているのは、殺人事件の悲惨さは、その事件の被害者だけでなく家族に重くのしかかるものだと思わされた。
親が子どもに及ぼす影響ということも考えさせられた。栗橋浩美もピースも親の影から逃れられなかったように思える。
どんなひどい親に育てられたとしても、それをバネに、反面教師にして、違う人生をつかめる人もいるのに、そうできない人もいる。その違いは何から来るのだろう。そんなことをふと考えてしまった。
また、高井和明の浩美に対する友情の深さには感動させられた。私ならここまでできるだろうか、と何度も自問自答してしまった。
映画は本とは結末が違うらしい。どんなラストなのか見てみたい。
中居くんがピース役だそうだが、私としては、読んでいる最中、浩美が中居くんで、ピースは窪塚くんと思い描いていた。キャストをいろいろ考えてみるのも楽しいおまけ。
これまで「火車」「理由」しか宮部みゆきの作品は読んでいなかった。いずれも面白いけど、深みにかける作品に思われた。でも、今回は犯人の思いがけない盲点を突いた行動や、多方面からの描き方(理由や火車も多方面からだったかもしれないが)が、一方向からではなくて著者の人間的懐の広さを感じさせられた。「悪は悪」「悪は憎むべきもの」「悪いやつが死ねば事件は解決」みたいな単純さを全く感じさせなかった。著者自身の姿勢が「どうしてこういうことは起こるのだろう?」といういろんなものへの疑問、例えば犯罪や行方不明がなぜ起こるのか、犯罪者は本当に憎むべき対象なのか、というようなものから発せられている気がする。
それは、私だけの読み方かもしれないが。
でも、どうして日本の作品はどれもこれも泥臭く感じられるのだろう? それは自分が日本人だからなのだろうか?ディーン・クーンツやマイケル・クライトン、スティーブン・キングやダニエル・スティールの作品に見られるようなスマートさ、ドラマティックさが日本の作品には欠けているように思える。
日本が舞台で登場人物が日本人なので、私には生々しく感じられるからだろうか?
でも、森瑤子なんかは泥臭さがなかったように思えるのになぁ・・・

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