おすすめ短編集 | |
イン・ザ・プール 奥田英朗 文芸春秋 | 自宅読書会の仲間がすすめてくれた。週刊誌で米原万里が「何度も大笑いした。ベッドから転げ落ちてしまったこともあった」と書いていた。そんなに面白いのか? とすぐに読み出したら、やっぱり大爆笑。短編集ではあるが、伊良部一郎という神経科の医師のところへやってくる患者たちがどの短編も主人公だった。 パニック障害らしき男性がプール依存症になる「イン・ザ・プール」。題名どおり「勃ちっぱなし」の男性が主人公の話。売れっ子タレントに憧れるコンパニオンで自意識過剰な女性が何人にもストーカーされていると思い込んでいる「コンパニオン」。ケイタイメールを毎日200通も打つ携帯依存症の男子高校生が主人公の「フレンド」。火の始末が気になって、出かけるまで何度も確認せずにはいられないルポライターが主人公の「いてもたっても」。 伊良部一郎は医学博士だけど、注射フェチで、トドみたいな体。自分の感情は抑えたりせず、常に全開。カウンセリングは「無駄だ!」と言ってやらない。全然、かっこよくないし、友だちもいない。尊敬できる人物でもないけど、もっともっと伊良部先生とその患者の話を読んでみたい。 その他の作品「マドンナ」信兵衛さんの書評へ |
ジオラマ 桐野夏生 新潮文庫 |
長編で成功している桐野夏生。彼女の短編を初めて読んでみたが、どれもこれも粒ぞろいで、「さすが、桐野夏生!」とうならされてしまった。 どの作品もミステリーではあるが、人間への深い観察眼をうかがわれ、読後に様様なことを思い巡らせた。 ラブホテルで客を取っている女、そこにいきなり女が現れ、「どうしてウリを始めたのか」話し出す「デッドガール」。ゾッとする話だった。ホモの男が隠蓑の為に結婚するが、顔も知らない男子高校生へ毎晩電話する「六月の花嫁」は、あっと驚く結末だった。空手の道場では誰もが尊敬する井戸川さん。彼が死んだ後、本当の井戸川さんの姿が明らかになる「井戸川さんについて」。人って、見る角度によって大きく異なる人物像を持つものなのかもしれない。表題作の「ジオラマ」も設定のユニークさと、登場人物が具体的に頭に浮かび、ドラマを見ているような気分になった。私の夫(彼も読んだのだが)が気に入ったのは、ドイツ人と日本人のハーフのカールが主人公の二つの短編。カールを主人公にもっと書いてみたいというあとがきにあった。私も「もっと読んでみたい!」 |
日曜の夕刊 重松 清 |
気持ちがふさいだとき、開きたい短編集。 どの作品も苦々しい現実を描きながら、ホロリとさせてくれる。心の清涼剤。 「チマ男とガサ子」は何事も整理整頓されていて、時間も厳守のきちんとした男と、どうにも物事が予定通りには運ばない、失敗ばかりのドジな女のカップルの話。 「カーネーション」は母の日に電車の網棚に置いてある一本のカーネーション。それを見ながら様様なことを思い巡らす三人。ボケた母親を持つ中年男性、妻を数年前亡く再婚を考えている男性、母親とほとんど話すことのない女子高生。 「桜桃忌の恋人」は太宰治狂いの女子大生と太宰ファンを装って、太宰にはまってしまった男の話。 最後の話は身につまされた。少年野球の監督と万年補欠の息子。私自身、少年野球の会長をしていて、息子は5年の夏から補欠。この作品では、「がんばったって、いいことはないけど、好きなことをやるのっていい」みたいに描かれていた。でも、私はがんばったらいい事があると思っている。報われないかもしれないけど、頑張るって、楽しいことだし、頑張れば、昨日よりは自分に力がついているだろう。やらないよりやった方が絶対いい! そうした反発がその作品にはあったけど、最後、万年補欠だった息子が中学へ言っても野球をやる「好きだから」と言ったところでは、泣いてしまった。中学では野球をする気のないうちの息子にも話して聞かせたけど、これと言った反応がなかったのが寂しい。 |
21のアルレー カトリーヌ・アルレー |
読んだのは20代の前半だったけど、忘れられない短編集。その頃、「知的悪女のすすめ」という小池真理子の本に強い影響を受けていた私。小池真理子が読書案内を出したときもすぐに買って読んだ。その中で紹介されていたのが、フランスのミステリー作家のカトリーヌ・アルレー。 さっそく読んでみようと書店に行ったけど、たくさん文庫本が出ていて、どれから読むべきか迷った。そのとき、唯一あった短編集。「21のアルレー」を読んでみることにした。 サハリ砂漠を横断する「地獄のツアー」で目も日焼けするのを知った。砂漠という凶器が人間を変えていく様がリアルに描かれていて、息もつかずに読んだ。他の短編の題名は忘れてしまったが、死刑が廃止になったフランスでそれまで死刑執行人を勤めていた人の独白や、夫を健康のためと言って、毎朝ジョギングさせて発作を起こさせて殺す女性の話など、20年近く経った今も強い印象が残っている。短編集を読んだ後は、続けざまにアルレーの文庫本を10冊くらい読んだ。 また読み返してみたい一冊。 |
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