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藤沢 周平
蝉しぐれ
 
蝉しぐれ (文春文庫)

初出 「山形新聞」夕刊 昭和61年7月9日より62年4月13日
単行本 昭和63年5月文藝春秋刊
文庫初版 1991年
2003年NHKでドラマ化
2005年映画化
単行本・文庫と合わせ120万部を超えている。

まるで江戸時代版「ハリポタ」のような物語

映画化もされた藤沢周平代表作品! これは読んでおかなければと、以前から思っていた。藤沢作品を読むのは4作目☆
文庫のあとがきは秋山駿氏。タイトルが目をひいて持って帰ったら、一晩で読んでしまったと書いてあった。
どれほど夢中にさせてくれるのだろう♪ とわくわくしながら読んだ。
実在しない海坂(うなさか)藩の城下組屋敷に暮らす、牧文四郎が主人公。
彼は牧家の養子。牧の母、登世は実の父親の妹。しかし血の繋がっている登世よりも父、助左衛門を敬愛していた。
とてものどかで、みずみずしい書き出し。
隣に住むふたつ年下の女の子、ふくとは互いが意識し合う間柄。
そして道場や塾の友人、陽気で体格のいい小和田逸平、剣はダメだけれど秀才で痩せた島崎与之介との友情。
これから友情を深めつつ恋が実っていくのだろうかと思っていたが、一転、文四郎は苦境に陥る。
父親の助左衛門は反逆罪だとされ切腹させられ、家禄は4分の1に減らされる。しかも今までの家とは打って変わったあばら屋に住まなければならない。
この切腹というもの、今まで映画やドラマで何度も見たことはあるけれど、大抵は切腹するシーンだけで、その後の映像はない。けれど、「蝉しぐれ」では、父親の遺骸を引き取りに来るように城からの使者に指示される。
遺体を運ぶのには荷車、または戸板か駕籠を用意しなければならない。
これを読むまで、 切腹後のことを考えたことなどなかった。死体を放置しておける筈もないだろうし、自宅で切腹させられることはまれなことだろうに、死体の処理まで考えが及ばなかった。
映像というのは見ただけで納得させてしまうもので、それ以上には余り想像を巡らさないものなのか、単に私が間抜けなのか。
切腹とは形だけで、すぐに介錯されると聞いたことがあったが、介錯されているのなら、首が離れた死体を持ち帰ることになるのだろうかと思っていたら、首は「縫いつけてあった」と出てきた。
介錯してすぐに誰か首と胴体を縫い合わせる係の者がいたんだろうか?
さすがに主人公が見ていないところまでは描かれていず、首縫いつけ係が切腹の時は必ずいるのかどうか、わからずじまいだった。
しかし罪人の首を切り落として、また縫いつけるとはなんと手間がかかる処刑なのだろうか。親切なのか残酷なのかわからない。
時代小説に不慣れな私は、(首縫いつけ係はわからなかったが)細かな描写のおかげで、ドラマや映画で見るのとは違い、非常にリアルに身近な物語として深くのめり込んで味わえた。まるで江戸時代の地方に住む下級武士の生活を疑似体験したかのように。
荷車に父親の遺体を積んで運ぶところは、家に近づいた頃、忘れられない名場面になる。
胸をしめつけられるようにせつなく、もの悲しく、それでいて温かいものを感じる、人として子として男として心が熱くなる場面に涙が溢れた。
父親が死に、お家取りつぶしになるかもしれない身の上になり、周りの人たちからは白い目で見られ、挨拶もしなくなった近隣の人や道場・塾仲間もいる。
それでも変わりなく友情堅い小和田逸平と島崎与之介。
まだこの辺で物語は4分の1くらいだった。ここくらいから読めば読むほど、もっと読みたくなり、本を閉じるのに一苦労した。
やがてふくは江戸屋敷に奉公に行ってしまう。そして文四郎は剣術に打ち込み、秘伝村雨を伝授されるまでになる……

物語が大方オシマイになる頃、これは、まるで江戸時代版「ハリポタ」だと思った。
「ハリポタ」の作者は「蝉しぐれ」を土台に「ハリポタ」を作ったんじゃないだろうかと思うくらいだ。
いや、それが成長物語の王道だということなのだろうか。
ハリポタは両親をボルテモートに殺されたが、文四郎の父は藩の権力争いの犠牲となり切腹させられた。
ハリーは従妹やその親に苛められたが、文四郎は道場・塾、近所の人に疎外された。
魔法学校には行かないが、文四郎は道場と塾に通う。 そして魔術でなく剣術を研鑽する。
ハリーは両親がどうして死んだか、その相手のことを徐々にわかっていくが、文四郎もやはり父を切腹に追いやった経緯やその黒幕が誰なのかを徐々に知っていく。
また、ハリーはボルテモートを倒すことによって魔法界と世界を救うが、文四郎は父親を死なせた黒幕の一派を抜きんでた剣術で蹴散らし悪政を企む派閥を霧散させる。
そして結末も、ハリーが結婚後、子どもができその子どもたちをホグワーツ行きの列車に乗るのを見送るところで終わっていたが、「蝉しぐれ」は事件が落着し、20年後、文四郎がふくと最後の別れをするところで終わっており、どちらも年をおいてその後のことを描いていた。
友情に恵まれ、ほのかな恋心をずっと抱きつつ、親を亡くしたことにくじけず、前向きに成長していき、やがて時が来たら、親の無念を晴らす、そしてしあわせに暮らすと、「ハリポタ」も「蝉しぐれ」も簡単に言えばほとんど同じ流れだった。
同じ流れではあるけれど、全く舞台は違い、時代も違い、それぞれにそれぞれにしかない魅力がたっぷりの物語。

ふくと最後に会ったとき、ふたりは交わったんだろうか? はっきりしない表現だったので、読者の想像に任せたということなのか、交わったに決まっているのに私が読み取れていないだけなんだろうか?
NHKのドラマはそこのところ、どう描いているのか、見てみようと思っている。
映画よりドラマの方がキャストがイメージに近いような気がするので、まず、ドラマを見ることにした。

海坂藩は架空の藩だけれど、庄内藩ではないかと言われているらしい。藤沢周平は庄内藩の城下町を事細かに調べ、城下町の図を見ながら「蝉しぐれ」を書いたのだろうか?
もしくは、自分なりに城下町を考えて、ここは商人町、ここは染川町という遊郭のある歓楽街、ここに山があり河が何本、どう通っていると想像して図を描いていたのだろうか?
自然の風景や街並みなどに作者のやさしい眼差しが感じられた。
また多くの登場人物が出てきて、名前も何のかかわりの人かも覚えきれないくらいだったけれど、それぞれに個性があり、それぞれの背景に物語が見え隠れしているように思える人ばかりだった。

藤沢周平熱はまだまだつづきそう。けれど、作品が多くて何から読めばいいのか迷ってしまう。
はずれなしでありますように……

藤沢周平 橋物語/

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