感想
15歳の田村カフカの話と、猫と話せて、読み書きができない60代のナカタさんという男性の話と、戦中に起こった意識喪失事件の調書や関係者の手紙、この三つの話が並列して書かれている。
ずっとこの三つの話がどうからんでくるのか、まるで見当もつかなかった。
もしかしたら、カフカ少年が図書館で読んでいる本が他の二つの話なのかと思いつつ読んでいた。
猫探しをしつつ生活保護で暮らすナカタさんのユニークなキャラはすごい印象に残った。「ナカタは頭が悪いので、考えると頭が痛くなってきます」「ナカタは字が読めないので電車に乗りません」「知事さんに怒られるでしょうか?」とか… 繰り返し出てくるフレーズ。静かに不満なく暮らす穏やかなそれでいて、奇抜なナカタさんにぐんぐん魅了されていった。
カフカ少年をめぐる人物、バスで出会ったさくら、図書館の大島さん、佐伯さんもそれぞれ魅力的で、図書館の二人は特に謎めいてしかも美しくて論理的で、世間から逸脱しているのに、普通でもあり… ただただ物語がどういう展開を見せるのか、必死で読んだ。
村上春樹は長編では「羊をめぐる冒険」が一番、好きだと思ってきたが、この作品が取って代わってしまった。
読み終わるのが勿体無くて、もっと話が続いてほしかった。
村上作品は映画化されたものは、ないように思えるけど、これは、映画化されたらな、と思う。
人生に起こることは全て決まっていてそれが複雑にからみあっている、全て意味あることである、許すことで自由になれる、というようないろんなメッセージもこめられてはいたが、そのメッセージよりもキャラクターと話の展開に魅了された。
ベートーベンの「大公トリオ」(百万ドルトリオ演奏)が出てくるが、この曲をぜひとも聴いてみたくなった。
村上春樹は普通じゃない。そう思ってしまった。
ベートーヴェン
: ピアノ三重奏曲第7番 「大公」&シューベルト : ピアノ三重奏曲第1番
東京奇譚集 1Q84
BOOK3
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